外耳炎の分類(PSPP分類)
耳のトラブルで一番多く、飼い主さんも気づきやすい外耳炎のお話です。
・耳がかゆい
・首を振って気にしている
・耳が赤い
・耳垢が多い
こんな症状を出す外耳炎。
外耳炎をきちんと診断・治療するため、我々獣医師が行っているアプローチ方法に「PSPP分類」があります。
【外耳炎をきちんと診断したいと考えます】
<外耳炎>とは、病気の名前ではありません。「外耳に炎症がある」という状況の説明をしている言葉です。症状名とも言えます。
つまり外耳炎という症状には、なにか原因があるはずです。
<外耳炎の原因を突き止めること>が、外耳炎の診断であり、突き止めた原因を治療することが、外耳炎の治療の最重要ポイントになります。
PSPP分類とは、その原因をつきとめるための分類法です。
【PSPP分類】 ~英語の頭文字~
外耳炎を引き起こしたり、悪化させる要因を四つのカテゴリーに分類します。
それは<主因><副因><増悪因><素因>です。
この英語の頭文字をとって並べるとPSPPとなります。
主因 Primary causes → 単独で外耳炎を引き起こすメインの原因
副因 Secondary causes → これ単独では外耳炎を起こさないが原因の一つ
憎悪因 Perpetuating factors → 起きている外耳炎を治りにくくする悪化要因
素因 Predisposing factors → 外耳炎になりやすくする要素
【主因】 Primary causes
主因とは、その存在だけで外耳炎を発症してしまう要因です。
主因が特定できて、主因の治療や管理が上手くいけば、外耳炎は完治するか、再発しない状態にできます。
逆に言えば、主因が特定できないか、管理が上手くいかなければ、外耳炎は持続し、悪化し、または再発をしてしまいます。
もちろん、主因と向き合わずに外耳炎の治療をしても外耳炎は治りません。
<代表的な主因>
- アレルギー性皮膚疾患:アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなど
- 寄生虫疾患:ミミダニ症
- 異物:植物の芒(のぎ=イネ科雑草の小さな種が多い)、抜けた毛など
- 腫瘤:腫瘍、ポリープ
- 内分泌疾患:甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症、性ホルモン失調など
- その他の皮膚疾患:脂漏症、分泌腺の異常、免疫介在性疾患など
- 特発性(≒原因不明)
これらの主因のうち、完全に取り除くことができる主因であれば、完治します。
例えば、寄生虫は駆除することで、異物は除去することで治ります。
腫瘤は、それが発生した場所や大きさにもよりますが、完全に切除できるなら、外耳炎も治せます。
ですが、残念なことに犬の外耳炎の75~80%程度が、その主因がアレルギー性皮膚疾患だといわれています。
そして、犬のアレルギー性皮膚疾患のうち、犬アトピー性皮膚炎が9割を占めます。
つまり、外耳炎の大半はアトピー性皮膚炎が絡んでいるといえます。
犬アトピー性皮膚炎はアトピー体質と環境要因、皮膚バリア機能の低下が複雑にからんだ疾患で、治ることの無い疾患です。
生活に支障が無いよう、症状や耳道・皮膚の状態をできる限り健康に近い状態に維持することが必要です。
アレルギー性皮膚疾患の中でも、特にアトピー性皮膚炎が多い犬種では、十分注意して治療していく必要があります。
※日本でアトピー性皮膚炎の発症が多い犬種
柴犬、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア、シーズー、フレンチブルドック、ラブラドールレトリバー、ヨークシャーテリア、トイプードルなど
【副因】 Secondary causes
副因とは、単独では外耳炎を発症しないが、他の主因や副因と組み合わさることで外耳炎を発症する要因です。
二次的な微生物の増殖が多いです。
副因の治療・管理は重要ですが、たとえしっかりとした治療を副因に対して行っていても、主因の治療が適切にできていなければ、外耳炎は再発します。
多くの副因は、取り除くことが可能です。
<代表的な副因>
- 細菌の増殖
- マラセチアの増殖
- 不適切な点耳薬や洗浄液の使用
- 不適切な耳掃除
主因の治療管理と並行して、副因の治療も行います。
【憎悪因】 Perpetuating factors
外耳炎の原因ではないが、外耳炎を悪化させる因子のこと。
慢性外耳炎では、その慢性の程度が重く、病気になっている期間が長いほど、増悪因の管理が重要となります。
正常な耳道構造・耳道の機能が失われている状態が増悪因となります。
<代表的な増悪因>
- 耳垢過多
- 耳垢腺の増殖・過形成
- 耳垢を自然に排除できない状況(上皮の移動障害)
- 耳道の狭窄
- 耳道周囲軟骨組織の石灰化
- 中耳炎
慢性的な外耳炎の治療には、増悪因の長期的な治療管理が必要です。
耳道軟骨の石灰化など、不可逆的な耳道構造の変化が起こっている場合は、外耳炎の内科的な治療は困難です。(※「不可逆的」とは、元の状態には戻らない状態のことです)
【素因 Predisposing factors】
外耳炎が起こる前から存在している因子で、外耳炎の発症リスクを増加させる因子のことです。素因があるからといって、素因単独で外耳炎が発症するわけではありませんが、素因を持っている動物は、持っていない動物に比べると、外耳炎になりやすいといえます。
- 耳の毛が多い
- 垂れ耳
- 耳道が細い(多くは短頭種)
- 高温多湿の気候・環境
- 水泳・シャンプーなど外耳道へ水が入る状況
- 閉塞性病変の存在(ポリープや腫瘍など)
まとめ
整理するとこうなります。
・外耳炎が起きた場合、最低一つは主因が存在しているはず。主因を治療しない限り外耳炎は治らないか、再発を繰り返します。
・副因は主因を後押しする因子。副因は主な原因ではありませんが無い方がよいもの。
・増悪因は、慢性期に治りにくくしている因子。長期的に管理・治療していかなくてはなりません。増悪因が重度の問題となっている場合は外科的な治療を行う必要があります。
・素因には、生まれ持った因子や環境因子が多く、時には受け入れる必要があります。ですが、素因をきちんと理解して、配慮してあげることで外耳炎の発生率を下げることができるかもしれません。素因があるからといって必ず外耳炎になるわけではありません。
中でも特に多い主因
主因の説明でも書きましたが、犬の外耳炎の多く(80%程度)はアトピー性皮膚炎や食物アレルギーの関与があると、論文で報告されています。
耳の症状・治療にとらわれすぎず、アレルギー性皮膚炎の診断・治療をしっかり行っていくことで、外耳炎を慢性化させないことが大事です。
この子は、耳以外にかゆいところはありませんか?
何歳からかゆい素振りがありましたか
耳が定期的にかゆくて、足の裏をしきりに舐めている子はアレルギー性皮膚炎かもしれません。
また、全身性のアトピー性皮膚炎の始まりが外耳炎だったというパターンも多いです。